以前は、申告不要制度、申告分離制度、総合課税のどれかを選択すると、
所得税と住民税では同じ課税方式で計算されると思われていましたが、
法律ではできないとの明言はなく、ただ、取り決めがなく規定化されていないだけでした。
平成29年度(2017年)の税制改正で異なる課税方式が選択できると明確化され、
地方税法が改正されることにより別々の選択が可能になりました。
(平成29年度4月1日からの住民税から適用になります)
それによって、どんなメリットがあるのかなどを解説します。
Contents
異なる課税方式が選択できるメリット
それぞれの個人の状況でメリットが異なります。
サラリーマン・公務員なのか自営業者・年金生活者なのか?
とか、
どれくらいの所得があるのか?
とか、
どういう種類のものに対してなのか?
とかで、
所得税や住民税をどの課税方式を選択するとメリットがあるのかがわかれます。
1)上場株式などの配当所得では、課税所得金額により所得税は総合所得、住民税は申告不要制度が有利になる場合があります。
上場株式などは「上場株式、公募株式投信、特定公社債、公募公社債投信など、特定口座の対象となる金融商品」となります。(以後「上場株式など」をこのようにします。)
配当所得においては、大口株主(発行済み株式の3%以上保有)以外では、
3つの課税方式、申告不要制度、申告分離課税、総合課税、のなかから所得税と住民税のそれぞれの課税方式を自由に選択することができます。
参考記事⇒株の配当を受け取る 大口株主と非上場株式の場合とその課税処理について
上場株式などの配当所得の課税方式の選択
所得税の課税方式 | 住民税の課税方式 | 異なる選択 | |
一般株主 | 3つから選択可能 | 3つから選択可能 | 可能 |
大口株主 | 総合課税のみ | 総合課税のみ | |
大口株主(小額配当) | 総合課税か申告不要制度 | 総合課税のみ | 限定で可能 |
*小額配当とは、年1回配当の場合1銘柄10万円以下に該当するもの、詳細は上記の参考記事より。
申告不要制度・申告分離課税・総合課税での対応等について
確定申告 | 損益通算 | 繰越控除 | |
申告不要制度 | なし | あり(特定口座内) | なし |
申告分離課税 | あり | あり | あり |
総合課税 | あり | なし | なし |
*損益通算(配当と譲渡益などとの間で)
課税所得金額により、所得税や住民税の負担額が変化し、それぞれに有利な課税方式を選択できる。
課税所得金額が大きくマイナスで繰越控除などが必要な場合には申告分離課税を選択することになります。
課税所得金額が一定の金額までは、所得税は総合課税で、住民税は申告不要制度が有利になります。
課税所得金額がその一定額を超えた場合は、所得税も住民税も申告不要制度が有利になります。
2)上場株式などの譲渡所得・利子所得では、社会保険料負担のために所得税と住民税で課税方式を変えるとメリットがある場合があります。
上場株式などの譲渡所得・利子所得は、2つの課税方式、申告不要制度、申告分離課税から選択します。
その2つである申告不要制度も申告分離課税も税率は変わりません。
なので、税負担だけを考えると所得税と住民税で課税方式を変えるメリットはありません。
特定公社債などの利子所得及び源泉徴収ありの特定口座内の上場株式等の譲渡所得については申告不要制度が使えます。
ただ、確定申告して申告分離課税で処理すれば、当年度の譲渡所得・利子所得・配当所得との損益通算や、損失が大きいときは数年度にわたる上場株式等の譲渡損失との繰越控除が使えます。
一方で、損益通算・繰越控除後の所得が社会保険制度における負担額に影響を及ぼす場合があります。
会社員や公務員は給与や賞与の水準をもとに社会保険料が算出されるので、副収入として配当所得や譲渡所得、利子所得を得ていても加入している社会保険には影響がありません。
自営業者や年金生活者は国民健康保険に入るので、配当所得や譲渡所得、利子所得を得ていると保険料に影響が出ます。
だから、自営業者や年金生活者は、配当所得や譲渡所得、利子所得の課税方法に注意する必要があります。
その影響を及ぼすのは住民税の分であるので、特に損益通算や繰越控除する必要が無いときは所得税も住民税も申告不要制度で済ませばいいですが、
特定口座内で損益通算できない時や繰越控除する必要がある場合は住民税の控除額と国民健康保険などの所得割を比較検討して、
住民税部分については繰越控除額よりも保険料増加額が多ければ申告不要制度、保険料増加額少なければ申告分離課税を選択することになります。
*例として、前年から繰り越された上場株式等の譲渡損失100万円がある場合に、国民健康保険料の所得割の料率を12%とすると、
当年の上場株式等の譲渡所得ごとの住民税の控除額と国民健康保険料増加額
譲渡所得 | 住民税の控除額 | 国民健康保険料の増加額 |
100万円 | 50000円 | 0 |
141.66万円 | 50000円 | 49992円 |
200万円 | 50000円 | 120000円 |
41.66万円x0.12=49992円
このケースでは当年の譲渡所得が
100万円の時は所得税も住民税も申告分離課税。
141.66万円の時はかろうじて所得税も住民税も申告分離課税。
200万円の時は所得税は申告分離課税、住民税は申告不要制度。
となる。
課税方式の計算について
3つの課税方式の計算について説明します。
1.申告不要制度
所得税が15.315%(2037年まで復興特別所得税0.21%(15×0.21%=0.315%)が加味されています)、住民税が5%徴収されます。
2.申告分離課税
所得税が15.315%(2037年まで復興特別所得税0.21%が加味されています)、住民税が5%徴収されます。
3.総合課税
所得税が課税所得金額により税率が変化(超過累進課税)し、
配当控除率は、課税所得金額1000万円以下の時は10%、1000万円超の時は5%になります。(日本株と日本株ETFの場合)
日本株と日本株ETF以外では配当控除率が異なります。
参考記事⇒上場株式等の配当控除について、それぞれの配当控除率、日本株ETFとは
所得税(超過累進課税)
課税所得金額 | 総合課税税率 | 税額控除額 |
195万円以下 | 5% | |
195<≦330万円 | 10% | 97500円 |
330<≦695万円 | 20% | 427500円 |
695<≦900万円 | 23% | 636000円 |
900<≦1800万円 | 33% | 1536000円 |
1800<≦4000万円 | 40% | 2796000円 |
4000万円超 | 45% | 4796000円 |
なので課税所得金額が900万円の時の配当控除後の税率は23-10+0.483=13.483%、ゆえに、所得税額は(9000000×0.13483)- 636000=577470円となります。
また、課税所得金額が1001万円の時の配当控除後の税率は33-5+0.693=28.693%、ゆえに、所得税額は(10010000×0.28693)- 1536000=1336169.3円となります。
(0.483%、0.693%は23%と33%の復興特別所得税率になります、2037年までの予定)
住民税率は課税所得金額によらず一律10%となり、配当控除率が1000万円以下の時は2.8%、1000万円超の時は1.4%になります。(日本株と日本株ETFの場合)
なので課税所得金額が900万円の時の配当控除後の税率は10-2.8=7.2%、ゆえに、住民税額は 9000000×0.072=648000円となります。
また、課税所得金額が1001万円の時の配当控除後の税率は10-1.4=8.6%、ゆえに、住民税額は 10010000×0.086=860860円となります。
ただし、住民税は各自治体により別途徴収している定額があることがあります。
以上のことから、
所得税は、
配当所得では、
課税所得金額が1521万円以下の場合総合課税、1522万円以上なら申告不要制度の選択が有利になります。
参考記事⇒株の配当を受け取る 有利な課税方法の選択とその詳細について
1521x15.315%=232.94115万円
1000×23.693%=236.93万円、521×28.693%=149.49053万円、236.93+149.49053ー153.6=232.82053万円
(上場株式の譲渡所得で損失が出ていて配当所得と通算しても大きくマイナスの場合は、翌年以降3年間まで繰越控除ができる申告分離課税制度を使うことになります。)
譲渡所得・利子所得では、
損益通算後の損失を翌年以降に持ち越す必要があれば申告分離課税、必要がなければ申告不要制度が有利になります。
住民税は、
会社員や公務員は社会保険制度の影響は受けないので繰越控除が必要ないときは申告不要制度、繰越控除が必要あるときは申告分離課税でいいですが、
自営業者や年金生活者は社会保険制度の影響もあるので、繰越控除がないときは申告不要制度、繰越控除があるときは繰越控除による減少額よりも保険料増加額が少なければ申告分離課税、
繰越控除による減少額よりも保険料増加額が多ければ申告不要制度になります。
それぞれの課税方式の手続きの仕方
所得税も住民税も申告不要制度なら特定口座(源泉徴収あり)にしておけば済みます。
所得税が申告分離課税(繰越控除などのため)で住民税が申告不要制度あるいは申告分離課税、
所得税が総合課税で住民税が申告不要制度なら、
所得税の確定申告書を税務署に提出するのとは別に、住民税の申告書を市区町村に提出する必要があります。
確定申告書が3月15日まですが、住民税の申告書は納税通知書送達日(給与天引きの場合は5月10日ごろ、自身で納付する場合は6月10日ごろ)までに提出すればいいので、
4月中に市区町村に住民税の申告書を提出するのが無難でしょう。
それぞれの市区町村で申告書の形態や記載内容が違いますので、あなたの自治体で問い合わせてください。
ところによれば、記載事項が限られた申出書のみでいい場合があります。(東京都練馬区など)
まとめ
上場株式等の配当および譲渡所得等で、場合によっては確定申告に加えて市区町村に住民税の申告書などを提出すれば、所得税と住民税は別々の課税方法を選べるようになりました。
上場株式等の配当では、課税所得金額が1521万円以下なら、所得税は総合課税で確定申告、住民税は申告不要制度を選択するのが有利です。
課税所得金額が1522万円以上なら、所得税も住民税も申告不要制度を選択するのが有利です。
上場株式等の譲渡所得等では、損益通算や繰越控除をする必要がなければ、所得税も住民税も申告不要制度が有利です。
(同じ特定口座内に入っていれば、自動的に損益通算されます)
繰越控除が必要な場合で自営業者や年金生活者においては所得税は申告分離課税、住民税は控除額と国民健康保険料の負担増とを比較検討して、控除額が上回れば申告分離課税を、下回れば申告不要制度を選択するのが有利です。
この場合は配当との兼ね合いがあるかもしれないので、総合的に有利な選択をしましょう。
繰越控除が必要でも、会社員や公務員では所得税も住民税も申告分離課税でしても社会保険料には影響しません。